俺は弾力のある雪の上を孤独に歩いていた。
ひどく腹が減っていて、まあ言ってしまえば"遭難"しているわけだ。登山途中に吹雪かれたわけでもなければ、そもそも山には登るつもりはなかった。
ただ引っ越し先で、道も分からないのに一服しようと車を降りて、軽装で林に寄り道したのがいけなかった。辺りの樹がみんな同じような見た目をしているせいで、記憶力には自信があったのに来た方面が分からなくなってしまったのだ。
かつて冒険少年と叱られたくらいには、見知らぬ場所の探索なんて好きだったから、その時も全く焦ることなく、適当に面白そうなものを探した。
雪がチラついていたが、ライターがあれば大丈夫だと理由もなく確信していた。
少し歩いてみると、小さな小さな足跡を見つけた。俺は最高に気分が上がって、夢中でその跡を追いかけた。
進めば進むほど雪は強くなり、傾斜はキツくなった。
さすがにまずいかと思って、引き返すことも考えたが、振り返ると俺の足跡はほとんど消えていたので諦めることにした。
それどころか、消えてない足跡の主が相当近くにいるのだと気づいて、一層興奮した。
林の入り組む場所に着くと、中心の大木の木陰から小さな2つの目がこちらを見ていた。
狐や子猫を期待していたが、焦げ茶の入り交じったそいつはあまりにもふもふでどう見ても小動物とは言えなかった。
しまった、こいつはやられた。
頭上の緑の葉っぱを見て思った。
思いっきり化かされた。
別にお金を取られた訳でもないが、俺はなんだか悔しかった。
近づこうと1歩を踏み出した途端にものすごいスピードで逃げ出してしまった。
ここまで追ってきておいてなんだが、これ以上追いかけても野暮である。それにもうその体力もない。
ゆっくりと大木に寄って、去り際に奴が落とした白い地面に良く目立つ食べかけの真っ赤なリンゴを齧った。静かな林にサクサクと音が響いて、口内に冷たさが広がった。
その場で木に腰をかけて思う。
そういえば帰り道分からなくなったんだった。
9/28/2024, 1:06:49 PM