「さあ、どうぞ。お受け取りください」
そう女は、足元でうずくまる男の頭に自身の足の裏を載せた。女は大分手慣れたようで(足慣れたと言うべきか)、素足の指先で男の髪を掴み、男の丸い後頭部に沿って足の裏を丸め、踵でこの男の頭をしっかりと固定させた。
男は、頭上に重くのしかかる色白の足の神々しい存在に、床に額を付けたまま手を合わせて微笑んでいる。彼にとって特別な瞬間であるが、女からすればいつものことなので、大して笑顔にもならない。
しかし、風呂上がりから間を置いて乾ききった清潔な素足で触れる、男の柔らかな髪は大層気持ちが良い。ベロア調の絨毯を撫でているような心地良さに、女はくすぐったく身をよじり、彼の毛並みに皮膚が同化されそうな不快を覚える。だが触るのを止めれない。
男の頭を床に押し潰すようにしていた足を軽やかにし、女は自由気ままに男の髪を撫で回した。足先にも足の裏にも踵にも、挙句は足の甲で男の頬に垂れた毛先をすくい上げるように触れ遊んだ。
「仏足石をいだたかせてください」と希った老人の日記がこの世に存在すると知ってから、男は女からのこの贈り物に心底救われている。女と手を繋ぐよりも足で踏まれる方が、この男にはちょうど良いのだ。
女からすれば、やはり日本の男は仏であろうが、女の姿であれば誰であれ抱きたくなるものかと今日も嘆いてしまう。
鬼のような心持ちになれない悲しみを足先に込めて、女はもう一度男の頭を踏み締めた。
(250122 あなたへの贈り物)
1/22/2025, 1:17:31 PM