お題【生きる意味】
『軽装』
喉の奥に、苦い綿が詰まっている。
目覚めるたびに、私は私であることを、ひどく恥じる。カーテンを透過する薄っぺらな光が、畳の上の埃を丁寧に照らし出している。その一つ一つにさえ、私より確かな居場所があるように思えてならない。
「また、やってる」
低く、乾いた声。部屋の隅、影の溜まり場に、その男はしゃがみこんでいた。
「……何が」
「あら探しですよ。自分の命に、欠陥がないかどうかの。ない、ない、ない。否定のオンパレードだ。君の頭の中は、今、不採用通知の山でしょう」
男は立ち上がり、私の本棚から適当な一冊を抜き取って、パラパラと指で弾いた。
「意味なんて、ないよ。そんなもの」
「……分かってる」
「いや、分かってない。君はまだ、意味という名の『救い』を待ってる。自分が無価値であることに、誰かの許可が必要だと思ってる」
男が本を閉じる。バサリと、重い音がした。
「いいかい。絶望っていうのは、観客席に座ってちゃダメなんだ。舞台に上がって、その絶望と心中するつもりで、べろべろに酔っ払って見せなきゃ。意味がないから死ぬんじゃない。意味がないから、何をしてもいいんだ」
男は窓を乱暴に開けた。湿った風が入り込み、私の頬を、冷たい平手打ちのように撫でた。
「腹が減ったな」
「……え?」
「意味なんて、その程度のことですよ。空腹に勝てる哲学なんて、この世には一つもありゃしない」
私は、自分の指先を見た。白く、頼りなく、それでも微かに震えながら、空気を掴もうとしている。
絶望は、私を殺さなかった。ただ、私を、余計な飾り付けのない一匹の獣へと引き戻しただけだった。
私たちは、意味という名の重いコートを脱ぎ捨てたとき、初めて、寒空の下で踊り出すための、軽やかな骨格を手に入れる。
神さまが用意し忘れた、生きる理由の空白を、私は今日、安っぽいジャムパンの甘さと、拭いきれない自意識の苦さで、勝手に塗りつぶして生きていく。
絶望は、ジャムの味がした。
4/27/2026, 10:33:39 AM