『星が溢れる』
「ひと狩りいきませんこと?セバスチャン」
悪役令嬢は虫取り網を背負いながら
執事に尋ねました。
「あの、どちらへ?」
「星を捕りにですわ」
今宵は待ちに待った流星群の日
大変貴重な星たちがこの地に溢れる夜です。
この星を練って作られるドレスやティアラは
眩い煌めきを放ち、身につければたちまち
社交界で注目の的になれます。
この絶好の機会を逃すわけにはなりません!
二人が星降りの丘へやって来ると、
そこには大量の人で溢れ返っていました。
共に寝そべって夜空を見上げるカップルに、
降ってきた星を一緒に追いかけるカップル
右も左もカップルだらけでした。
(ちっ、イチャイチャしやがって。許せませんわ)
「場所を変えますわよ、セバスチャン」
「あの、それなら俺いい場所知ってます」
そうして彼に連れてこられた場所は崖の上でした。
冷たい海風が吹き荒れるそこは普段なら
殺風景な場所に思えましたが、今日は空から
降ってきた大量の星たちで溢れかえり、
大地を眩い光で照らしていました。
(ふむ、確かに穴場ですわね。
人気も一切ないようですし…)
それもそのはず、ここへ来るまでの道中に
現れるスケルトンや亡霊を倒してまで
わざわざ訪れる者は少ないでしょう。
「さあ、準備はよろしくて?セバスチャン」
「はい、主」
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悪役令嬢は悪戦苦闘した。
(この星、なかなかにすばしっこいですわね…)
星たちはぴかぴかとその身を輝かせながら網を
掻い潜り、ぴょんぴょんと飛び跳ね逃げていきます。
「はあはあ、やっと一匹捕まえましたわ」
悪役令嬢が息を上げる傍で、狼の姿となった
セバスチャンが獲物を追い詰めるように、
星たちを一匹ずつ俊敏に捕らえていきました。
星を咥えながらこちらへ駆け寄ってくる
従者の姿に悪役令嬢は感嘆の声を上げました。
「素晴らしいですわセバスチャン!
流石は私の執事!」
悪役令嬢が耳の付け根から顎にかけて撫でると、
彼女の従者は嬉しそうに尻尾を
ぱたぱたと横に振ります。
そうこうしてる間に、巨大虫取り籠の中は
星たちでいっぱいになりました。
「うわー」「やー」と鳴きながら籠の中で
もぞもぞと動く星たちを眺めて悪役令嬢は
満足げに頷きました。
「このくらい集めたら十分でしょう。
さあ帰って厳選しますわよ、セバスチャン!」
3/15/2024, 1:14:32 PM