「月に願いを」
ああ、今日も一日がすぎてしまった。
そう考えるようになったのは私が社会のネジとして機能し始めてからだろうか。彩りがあった学生時代は瞬きをするように終え、今では透明な世界だけが私の世界に広がっている。今日は何回人に頭を下げたのだろう。
私はコップに透明な液体を注ぎ、いつの日か買った四角い箱を手に取った。ベランダに出て、中から紙の筒を取り出し火をつける。ジリジリと燃える火は、汚れていく肺と似ている。自分の身体を汚しているのはわかっているのに、私はこの行為が辞められなかった。
やはり、夜は澄み切っていて心地がいい。私はそう思った。すると急に匂いが変わった。煙の匂いだが、私のものとは違う。ふと隣を見ると、同じ行為をしている人間が見て取れた。横顔を見るに、私よりも若い。
『タバコ好きなんですか?』
急にそう話しかけてきた。その姿は美しく、月明かりにはスポットライトになった。
「は、はい。」
『じゃあ、一緒に吸いましょ。』
「いいですね…。」
もう少し話したくなってしまったのは、きっと月が綺麗なせいだ。
『月に願い込めたら、願いって叶うんですかね?』
「叶ったら素敵ですね。」
そんなことを言うから私も願いを込めた―。
5/27/2024, 10:05:05 AM