【幸せに】
時間を持て余し、俺は居眠りをしてしまったらしい。
夢を見ていた。
俺がただ、彼女が見守る中で眠っている幸せな夢。
夢というよりは、自分の中にある一番の優しく幸せな記憶、という方が正しいのかも知れない。
彼女の前では安心して眼を閉じる事が出来る。彼女の側に居るだけで、心が暖かいもので満たされていく。
この穏やかな時間を、自分の手で守り育てたい……そんな感情と、愛しい存在を俺は得たのだ。
俺の人生の中で、それはほんの数ヶ月だったけれど。
確かに俺は幸せだった。
けれど全てが遅過ぎた。
何故そんな事が許されるというのだ。人を殺めた、この俺に―――
俺は己の愚かさ故に、彼女の微笑みや暖かな温もり、あの穏やかで優しい声……その全てを切り捨てなければならない。今の自分はもう、彼女の、いや誰のどんな愛情にも値しないのだから。
俺はそれだけの事をしたのだ。
でも彼女は違う。いつか違う幸せを、愛を掴める日が来る。
だからこそ、この先俺に関わらせてはいけない。万が一にも犯罪者の恋人なんて、彼女が世間の好奇な目に晒される事などあってはならないのだ。
「今度こそ……さよならだ」
アンタと会えて良かった、と心の中で呟く。
早く俺の事は忘れて、幸せに。
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※彼女=2023/8/25お題【やるせない気持ち】の『私』
3/31/2024, 12:31:52 PM