せつか

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産まれた時にあんなに泣くのは、辛いことばかりのこの世に出てきてしまった事が悲しいからだ。
そう言ったのは誰だったか。
今、目の前にソイツがいたら渾身の力を込めてぶん殴ってやるのに。

一言も発することなく消えてしまった、小さな命。
白く冷たくなった我が子に呆然とする妻。
開かれることの無かった瞳は、薄い瞼の奥で何を見つめていたのだろう。

「泣かないよ?」
妻がポツリと呟く。
「·····泣かないね」
私もポツリとそう答えて、妻の体を抱き締める。
「やっと会えたのに」
妻の声は震えていた。
「·····そうだね」
私はそれだけ言うのが精一杯で。
「うぅ·····、っあ、あぁぁ――」
妻の泣き声が狭い病室に響く。

妻の腕の中、真新しいおくるみの白が目に痛い。
私は妻と、妻の腕の中の小さな命をまるごと抱き締めて、妻と一緒にこれが生涯最後とばかりに泣きじゃくった。


END



「泣かないよ」

3/17/2026, 4:28:52 PM