【仲間】
俺は最近、オンラインRPGを始めた。
自分がカスタマイズしたキャラを操作して、他のプレイヤーが操作するキャラとチームを作り、協力して敵を倒すゲームだ。
まだ数ヶ月しかプレイしていないが、ゲーム内では数人の仲間ができた。ボイスチャットで話しながらゲームをプレイするのが、楽しくて仕方ない。
バトルで勝つと、向き合ったキャラ同士の拳を触れ合わせるモーションをみんなで使い、勝利の喜びを表現するのがお決まりのパターンだった。
よく一緒に遊んでいるゲーム仲間は三人だ。
攻撃力が高く、みんなを勝利に導いてくれる頼れるアタッカーキャラのサトルさん。
チームがピンチの時、仲間全体の体力や状態異常を回復してくれる癒し系ヒーラーキャラのアリスさん。
強い敵に遭遇すると率先してみんなを守ってくれる、寡黙なタンクキャラのリキさん。
みんな新しくゲームを始めた俺にも優しくしてくれて、分からないことを教えてくれるいい人だ。当初は一人黙々とゲームをプレイすることになると思っていたが、思いがけず気の合う仲間ができたので、とても嬉しかった。
けれど、ゲームをやめて現実に戻ると俺はたった一人だ。いじめに遭ってから不登校になり、外出する頻度も少なく、高校の単位も危うい。親には見放され、友達もゼロ。毎日のようにゲームばかりして、食って寝て。俺の人生に、いったい何の意味があるんだろう。
いくらゲームの中で仲間ができようが、俺はひとりぼっちのまま。サトルさんは奥さんと息子さんが居るサラリーマン。アリスさんは俺と同じ高校二年生で、きちんと学校に通っているらしい。リキさんは詳しくは聞いていないけど、何かの職人さんでお弟子さんも居るんだとか。
みんなそれぞれ、仕事をしたり学校で勉強をしたりして、そのあとにゲームをしているわけだ。それなのに俺は、一日中ゲームばかり。みんなが仕事や学校に行っていてログインしていないあいだも、一人でレベル上げをしている。おかげで後からゲームを始めた俺のキャラのレベルは、二ヶ月先にゲームを始めていたアリスさんに追いついてしまったくらいだ。
俺だけが、俺だけがどうしようもない奴だ。毎日みんなと同じゲームをして、一緒に敵を倒して、一緒に喜んでいるのに。
みんなのことが大好きだけど、みんなと居ると自分が惨めで苦しくなってきて。俺はとうとう、ゲームにログインしなくなった。
――ゲームから離れて半年。俺は一人でファミレスに行った。ピスタチオが好きなのだが、それのパフェが出るという情報をネットで見て、我慢できずに外出したのだ。
タブレット端末でパフェを注文してスマホをいじっていると、隣のテーブルから声がした。
「ユウくん、どうしてるかなー。心配だよ」
「アリスって、ユウくんが居なくなってからユウくんの話ばっかりしてるよな」
「そりゃそうだよ! だって、みんなで毎日遊んでたわけでしょ? 何か欠けてる感じがするっていうか」
「……確かに、俺もそう思うぞ。ユウが居ないと、つまらん」
「そうだよな。僕もユウくんが居ないのは寂しい。戻ってきてくれないかなあ」
何度もボイスチャットで聞いた、サトルさん、アリスさん、リキさんの声だ! ユウというのは、俺がゲームで使っていた名前。みんな、俺なんかのことを……。
「あのっ!」
勇気を出して声をかける。大人しそうな見た目でメガネをかけているサトルさん。可愛い今どきの女子高生のアリスさん。気難しそうで体の大きいリキさん。使っていたキャラの見た目とは違っている部分もあったけど、確かに彼らは現実に居た。
「俺、ユウです」
「ユウくん……?」
「嘘っ!? ホントにユウくんの声じゃん!」
「……久しぶり」
……そのあと、俺はみんなに言っていなかったことを話した。しばらく不登校なこと。友達が居ないこと。みんなに引け目を感じてゲームを休止したこと。みんなはゲームをしている時と同じく、優しかった。ゆっくり話を聞いてくれて、励ましてくれた。そして、
「僕たちはもう、ユウくんの友達だよ」
「そうだよ! ゲームの中だけじゃなく、リアルでも仲間だよ」
「……大事な、仲間」
三人の言葉が嬉しくて泣いてしまって、俺は一人じゃないんだと思えた。それから、頑張っているみんなと居ても恥ずかしくないよう、自分も頑張らなければと前向きになった。
「ありがとう」
俺がお礼を言うと、みんなが拳を突き出してきた。俺もはっとして同じように拳を突き出し、みんなでコツンと触れ合わせる。ゲームのキャラたちが使っていたモーションを、こうして現実で出来るなんて。ゲームの世界だけでなく、現実でも本当の仲間に出会えたのだと実感した。
12/10/2023, 10:49:13 AM