ハニートースト

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「ねぇ。今日夜散歩行かない?」
 仕事終わりに携帯を開くと、愛佳からメッセージが届いていた。

 社会人になってからすっかり運動不足になった私と愛佳は自分達の怠惰な生活を猛省し、時間が合う時は一緒に散歩に行くようになった。

 私は簡単に承諾のメッセージをおくり、家路を急ぐ。家に着くと夕飯用に予約炊きした炊飯器を横目に、仕事用のスーツを脱いで動きやすいジャージを着る。スマホと家の鍵と私たちを繋ぐイヤホンを握りしめ玄関を飛び出た。

 愛佳に連絡するとすぐに着信が鳴った。
 東京と大阪という離れた地に暮らす私たちにとって、「一緒」とは電話をしながらという意味に等しい。

「仕事おつかれ。今日はどれくらい歩こうか。」

愛佳と話しながらの散歩はあっという間に時間が過ぎる。終わりの時間を決めても気づけば真夜中近くまで歩いていることもしばしばあった。側からみれば独り言を言いながら歩いているように感じられるかもしれない。そんなことを考えながら私は家の周りの夜道を何周も何周も歩く。

 話すことは様々で、仕事や恋愛の話もあれば人生について、生き方についてそれはそれは壮大な話もする。なにせ話が尽きないものだから、いつしかスマホの電池がなくなるか、電波が悪くて声が聞こえなくなるか、それが終わりの合図のようになっていた。

「実はねいま新しく読んでいる本があって、それがまた面白行くて。今日はその話がしたかったの。」

どうやら愛佳には愛読している本があるようだ。愛佳は本から得た知識を楽しそうに教えてくれる。私は電話ごしに相槌を入れながら、たまに空を見上げて歩く。

 空には眩く輝く星と大阪のどこかで同じように歩き回っているであろう愛佳の顔が浮かぶ。
今日も私たちの声が夜空を駆ける

2/21/2025, 4:11:49 PM