ねこ

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中学生の頃、愛してやまなかった人たちがいた。
彼らはいつも画面の中にいて、いつだって整った歌声を披露してくれて、幼い私の病み心をはんぶんもらってくれた。
そのおかげで私の命は繋がれていたと言っても過言ではなかっただろう。

それはいわゆる“推し”だった。
最近では「推し活は万病に効く」なんて言葉もたまに聞くが、当時はまさにその通りだった。

しかし、中学生時代という名の思春期を過ぎた頃、少しずつ私の熱もおさまり、だんだん彼らの声を聞くことはなくなった。

そうして月日は流れ、私は大学生になった。一人暮らしが始まり、初めてのバイトをやり始めた。
バイト先では、変に膨れ上がっていた自信がボロボロに崩れ落ちたり、上下関係の経験の無さから自分の未熟さや軽率さなどを思い知ったりしていた。
特別何かを話せる人はいないまま、静かに一喜一憂を繰り返していた。

そんなある日、私はとても自信を失っていた。
理由は単純で、前回のシフトの時、帰省から帰った後の自分の仕事がまるで目も当てられないほど退化していたからだ。
この日は流石にメモを読み直してから行ったので、二の舞RTAだけは避けられた。
だが、この後休みを挟んでまた同じことをやったらそれこそクビになるかもしれないので、仕事中殆ど仕事のことを考えていた。まあ文字に起こすと当たり前だが...。

そうこうしていると、人の流れが少しずつ落ち着いてきた。するとどうやら、バイトの先輩たちが好きなアーティストのライブの話をしているのが耳に入った。それぞれ好きな人は違うようだったが、片方の先輩が発していた単語はやけに聞き覚えがあった。

______わ。

私はその時、ゆるやかに心の温度が上がっていくのを感じた。
実はこの時期、己のあまりのコミュ障度合いに心が折れて、バイト先での人間関係は半ば諦めかけていたところだった。

そんな私の耳の中に転がってきた言葉は、あの頃死ぬほど好きだった彼らを指す名前。

その後はちょうどその先輩と2人になるタイミングがあった。しれっとスマホのロック画面も盗み見ることにも成功し、私は完全に外堀を埋めることができた。
最初は雑談から入り、共通のゲームの話題になり、会話の流れが完璧にお膳立てされた状態が来て、私はいった。





「あの、先輩ってもしかして_____」






あの日の彼らが、数年の時を超えて、また私の心に火を灯してくれたのだった。












今日のテーマ「心の灯火」

9/2/2023, 3:46:51 PM