大狗 福徠

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とある騒ぎも一段落した頃、
正常性を取り戻した日常にて
私は命をつないでいる。
騒ぎにより正気を失った私の目は懸絶したようで、
人が人と映らなくなった。
私の知る人とは、
頭は星や恒星のように輝きはるか彼方に浮き、
その体躯は夜空を固めた宝石のように美しく、
まるで鈴が鳴るような美しい音で喋るものであった。
今私の目に映る其れ等は、
薄橙の皮を被り、内は赤黒い肉で埋まっている。
口と呼ばれたものから溢れる音は蝉声のように喧しい。
だが、医者が言うには
人とはもともとそういうものである
らしい。
私の視界はあの輝きで満ち満ちていた。
あのような輝きに当てられていたものだから、
この世界は暗くて仕方がない。
あのような星がなくては私は前が見えない。
己の足元さえ覚束ない。
この手は冷えて鈍りきり、触れても何も感じない。
家族と呼ばれていたものが騒ぎ立てている。
五月蝿くて仕方がないが、
あれらに私の声は聞こえぬもので黙れとも言えなかった。
醜悪しか映らぬ目を閉じる。
髪と言われた部位の長い人が言っていた「にんちしょう」とは何なのかだけが気がかりだった。
私はそれに罹患しているらしい。
騒ぎの中盤あたりでそのことを伝えられた。
今一度問い正した方が良いのだろうが、
しかし閉じた目を再び開けるのも煩わしかった。
嗚呼、私の星はどこへ行ったのだろうか。

3/12/2025, 6:07:15 AM