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『ラララ』

風が運んできたその声は、小さく掠れていた。
それでも私の耳に届いたのは、ひとけのない裏通りだったからだろう。

見るとひとりの青年が、スマートフォンに向かって「ラララ」となにかのメロディーを吹き込んでいる。

気づかないふりをして通り過ぎた後、何の気なしにそれを口ずさんでみた。
なんの曲だろう?
どこかで聞いたことがある気がする。たぶん、日本の曲。
J-POP?
童謡?
音楽の教科書に載っていた曲?
わからない。思い出せない。
こういうのは後を引くやつだ。頭の中に居座って、正体を見破るまで離れない。

そうなる前にと、本当はもうそうなりかけているのだけれど、スマートフォンを取り出して音声検索をかける。
マイク形のアイコンに向かってラララと吹き込んだところで、ハッとした。

さっきの彼も、同じだったのでは?

振り返ろうとした私の横を知らない誰かが通り過ぎた。
私の声など気づいていませんよという風に。
でもきっと、あと数歩もしたら口ずさむはず。私たちと同じメロディーを。

3/8/2025, 9:37:15 AM