霧夜

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❀誰かのためになるならば❀


「俺のお陰で誰かが救われるんだったら、別に俺がどうなっても良いんすよ」

そんな事を、言わないで欲しい。

「どうせ、俺なんかの心配をしてくれるような人なんて、いないですから」

そう言いながら、彼は苦しげに口角を上げる。
彼は何時もこうなのだ。
どんなに傷付いていても、相手を心配させまいと、無理して笑顔を作ろうとするのだ。
そんな彼の顔を見るたびに、胸が締め付けられて、こっちまで苦しくなってきて。
そして、今回はーー。

ギュ〜ッ

「え?どし「そんな悲しい事を、もう私の前で言うな」」

私はいつの間にか、彼に抱き着いていた。


「お前の相手を思いやる気持ちの強さは知ってる。どれだけお前が優しいのか知っている。だけど…せめて私の前だけでは…お前の弱い所を、見せてくれ」


私より少しだけ小柄な身体を包み込むように、強くけれど優しく抱き締めた。
こんな身体で、誰よりも強い責任感と底なしの優しさを心の中に持っている。

「お、俺は大丈夫すよ…弱いところだって貴方に沢山見せてるし…だから貴方が心配することなんてなにもないっすよ」

ほら、まただ。
彼は自分の気持ちに蓋をして、大丈夫大丈夫と相手のことを一番に考えようとする。
そういう所は彼の良い所であり、悪いところでもあると思う。

「……お前はさっき、自分の事を心配するやつはいないと言ったな?」
「え、た、確かに言いましたけど…?」

ここまで言っても、まだ彼は何も分かっていない。
彼は自分の事になると最高に疎いのだ。俺は溜息を吐きそうになるのを、必死に堪える。

「…誰もいなくなんてない。お前の友達だって、他の寮のやつだって…勿論、私だって、お前が大切だ。心配しない訳がないだろう?」

「…………」

「だから、そんな事を二度と言うな。お前はもっと人を頼ることを覚えろ。…それとも、頼りたくないと思うほど、お前は周りを信頼してないのか?」

「何言ってるんですか!!信頼してるに決まってるじゃないですか!!」

「信頼してるなら、尚更周りを頼れ。周りに頼るのを躊躇ってしまうならば、せめて私を頼れ」

逆に頼って貰えないと信頼されて無いと思うだろ
と付け加えると、彼は俯きながら黙ってしまった。
きっと、今彼にこんな事を言っても、誰よりも人思いな彼はすぐにそんな事なんて忘れてしまうだろう。
だから、少しでも忘れさせないように、彼が安心できるように。そんな彼を俺は更に強く抱き締めた。

7/26/2023, 11:02:07 AM