陽ノ下桜子

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『ないものねだり』

幼い頃から欲しかったモノがありました。
それは見えないもので、触れる事も出来ないモノでしたがその当時の私はそれをとても渇望していました。

子供は馬鹿だと下に見る大人もいますが、これが実際どうでしょう。
子供は大人よりも周囲の行動に敏感です。
大人の機嫌が悪かったらそれを察して自分ながらに動くのです。
子供は子供ながらに世の闇を知っていると思っていた方がいいでしょう。
もちろん、幼かった頃の私もそれに当てはまりました。

毎日の様に親のご機嫌を伺うのです。
楽しかった話も悲しかった話も、親の機嫌次第で言えなくていつも寂しい想いをしていました。

いつも他の家の親と自分の親を比べていました。
楽しく話をしながら帰る親子の背を見る度に、その当時は分からなかった嫉妬が私を駆け巡りました。

ずるい、私もそうなりたい、見てもらいたい
子供ながらの精一杯のエゴが初めて生まれた時でもありました。

「あっちいって」
エゴが生まれた時から、私は見てもらえるように自分なりにアピールをしていましたが
両親には意味がなかったようでした。

「ごめんね」
まだ安定していない幼い口から発せられる謝罪の言葉
そんな謝罪も意味の無いものになってしまう。
まだ何も知らぬ幼い体にはとても耐えがたいものでした。

見て、ねぇ見て、私を見て
興味がなそうに私にそっぽを向く両親の背に必死に訴えど意味はありませんでした。

心に栄養が届かないまま私は大きくなり、少しながらあの時何を欲していたのかが分かるようになりました。
そうずっと、ずっと私はそれを欲していたのです。

"愛がほしい"

3/26/2023, 11:18:38 PM