とりあえずこれをと差し出されたのは、丁寧にアイロンがけされた真っ白なハンカチ。
礼を言いながらそれを受け取り濡れた顔にあてると、柔軟剤の柔らかな匂いがした。
タオルを持ってこようとしたその執事を引き止め先程の修羅場の一部始終を撮影出来たか問いかけると、映像音声共にとだけ答える。
本当に、優秀な男である。
聞いたこと以上の情報と結果をたった一人で淡々と成し遂げる所は、今も昔も変わらない。
そこが一番好きなところだと彼女は常々思っている。
幼い頃から結婚した今でも愛している彼が、ずっと隣にいてくれる。
それがどれほど尊いことなのか彼女はよく知っている。
だから彼女は結婚した。二番目の男と。
だから彼女は身体を重ねない。一番愛する男と。
いつまでもずっと、微熱に浮かされたようなこの関係で繋がっていたいがために。
「あなたが好きよ。誰よりいちばん」
「存じております」
口付けを受け入れてもそれ以上を求めはしない男を、少しだけ憎たらしく思いながら。
11/26/2023, 5:42:15 PM