よる

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弦を弾くゴツゴツした手。
でもそれを撫でる指先はやけに優しい。
長い前髪や首筋をつたって流れた雫は
眩しいほどに輝いて、落ちる。
強い意思を持った存在感の強い音も、
揺れる肩と共にホールへ響く。

ステージに立つ先輩は、別世界の人間。 
あの誰よりも真剣で楽しそうな表情が、
どうしても頭から離れなくて。 
目で追うことしか出来なかったけれども。
特別な人、だったな。


青春時代を彩ってくれた、彼の音色。
ラムネ瓶に透けて見えたあの夏の景色は、
きっと忘れることはないだろう。



#19
大切なもの

4/2/2024, 3:39:37 PM