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 陶器を扱う店で、ソーサーに載っているティーカップがずらりと並んでいた。今までソーサー付きのティーカップなんて、買ったことがあっただろうか。

 家にある普段使っているのは、実用的なデザインのものだ。厚みがあり割れにくい。ほかに貰いもののティーカップがある。これは、ソーサー付きで高級感はあるけれど、すごく好みかといえばそうでもない。

 店の棚に並ぶティーカップは、一つ一つデザインが違って個性的だ。花柄や金の縁取りがついているもの。取手に装飾があったり優雅な雰囲気だ。その中の一つが気になって手に取った。

 白い乳白色が美しく、青い花が描かれている。取手やカップの形はシンプルなのだけど、質感は薄く繊細だ。思わず見とれていると「それ、素敵ですよね」と店員さんが話しかけてきた。「今なら少しお得になっています」。見ると赤札がついていた。これはと思った。

 レジに持っていくと、「お客様の雰囲気にとても合っています。たくさん使ってくださいね」。たくさん、か。気に入ったものを大切にするあまり使わなかったりするけれど、これはたくさん使おう。何より自分のために気にいったものを買ったということが、うれしかった。


「ティーカップ」

11/12/2025, 8:53:08 AM