初音くろ

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《君と出逢ってから、私は・・・》





最初は天敵だった。
私がどんなに努力しても、悠々と一歩先を行く君が、憎たらしくてたまらなかった。

それから暫くして、好敵手になった。
飄々とした態度の裏で、君もたゆまぬ努力をしていることを知って。
苦手な科目を教えあい、切磋琢磨できるのは楽しかった。

君と出逢ってから、私はずいぶん成長したと思う。
誰かと競いあう方が張り合いがあること、共に学ぶことで新たな視点が生まれることを知った。
一人で黙々と学ぶより、身に付くことが多かった。
あんなに憎たらしかった一歩先を行く君が、いつしか先導してくれているようで頼もしく感じるようになっていた。



「結局最後まで勝てなかったなあ」

卒業前の最後の試験、貼り出されたその順位表を見上げながらぽつりと呟く。
一番最初に試験の結果を見た時にはあんなに悔しかったのに、今は納得している自分がいる。
全く悔しくないわけではない。
最後の試験くらいはせめて負けずに肩を並べたかったのに、それが叶わなかったのはやっぱり悔しい。
でも、その悔しさは、自分の努力不足を嘆くものだ。

そしてもう1つ。
密かに掛けていた願が不発に終わったことも、残念でならない。

好敵手。級友。親友。
私達の関係を表す言葉に色気はない。
もしもこの試験で君に勝てたら――勝てないまでも、せめて同点で肩を並べられたなら、胸の内で密かに育ったこの気持ちを告げようと思っていたのだけれど。

よく考えたら、これで良かったのかもしれない。
告白しても受け入れてもらえる保証はなかったんだし。
たまにいい雰囲気になってたように思ったのだって私の錯覚だったかもしれないし。
告白して玉砕したらそれまでだけど、言わずにおけば少なくとも友達のままではいられるわけだし。

言い訳がましく頭の中で繰り返していると、本当にこれで正しかったのだと思えてくる。
これで大事な友達を失わなくて済むと安堵さえ覚える。

「結果は?」
「おめでとう。いつも通りの順位だったよ」
「やった!」

遅れてやってきた好敵手殿に結果を問われ、私は笑顔でそれを告げた。
普段は順位なんて気にしないのに、今日は珍しく喜びを露わにしている。
在学中の全試験でトップを死守したという偉業を達成したのだからそれも当然かもしれない。

「良かったね」
「うん。実は願掛けてたんだ」
「願掛け?」
「そう。今日の結果で1位を死守できたら、君に好きだって言おうと思ってたんだ」
「え?」

聞き違い?
私は都合のいい白昼夢でも見てるんだろうか?

信じられずに目を丸くする私と、はにかむように微笑む君。
周囲から音が消え去り、まるで時間が止まったかのよう。
順位表を見に来た人達は、突然の告白劇を固唾を飲んで見守ってる。
恥ずかしさのあまり、私は君の手を取って、脱兎の如くその場から逃走した。
衆人環視の中で答えるなんて冗談じゃない。

ああ、本当に、君と出逢ってから、私はいつもジェットコースターに乗ってるみたいだ。
感情のアップダウンが激しすぎて寿命がいくつあっても足りやしない。
だけど、君と出逢ってから、私の世界は鮮やかに色付いて、もうモノクロームの世界になんて戻れっこない。

告白の返事を聞いた君の笑顔は、私が見たどんなものより色鮮やかに輝いていた。





5/5/2023, 3:06:39 PM