題 何気ないふり
私の憧れの先輩が学校の自販機の前で何か飲み物を買っていた。
私は一度通過して、先輩に気付いて、あっ!と思い立った顔をして、自販機に引き返す。
そして、先輩の後ろに並んで飲み物を買うのを待ってる人を演じた。
先輩は、私をチラッと見ると、
「ごめんね、買う?今迷ってて・・・」
と話しかけてくる。
先輩と直接話すのは初めてだったから、私は上がって、
「あっ、いえっ、ど、どうぞ・・・」
赤面して挙動不審な返答をしてしまう。
「そっか・・・。ウーロン茶か緑茶か、迷ってるんだよね・・・」
先輩、いつも友達といるから、一人でいるの珍しい。
しかも、こうして、会話できるなんて、もう今後そうそうないかも・・・。
「あ、迷いますよね、私も良く迷います。ゆっくり選んでくださいね」
先輩が気安く話しかけてくれることに軽く驚きながら、私は必死に言葉を考えて先輩に返す。
先輩はニコッと笑いかけてくれる。
「ありがとう、うーん、じゃあ、緑茶にしよう」
先輩に笑いかけられて天にも昇る心地だ。
もっとゆっくり選んでいて欲しかったけど、先輩は、飲みたいものを決めてしまった。
私はがっかりして、先輩が、かがんで飲み物を取るのを見ていた。
「あのさ」
そんな私に先輩が話しかけてくる。
「良く、テニス部、見てるでしょ?テニス興味あるの?」
あ・・・。先輩を見に行ってたの、バレてた?
そっか、先輩、テニス部の副部長だから、それで気になってたのかな?
「あ、そ、そうです、私今帰宅部だから、いろいろ部活見て回ってて・・・」
私は咄嗟にウソを言ってしまう。本当は運動音痴で、とてもテニス部なんてついていけなさそうだ。
だけど、先輩がテニスをしているのを見ている時間は飽きない。
「そっか、もしテニス部興味あるなら、おいでよ」
先輩にそう言われて、舞い上がってしまう私。運動音痴とかどうでも良くなって、今すぐ、入部します、と言いたくなった。
「は・・えっと・・・ありがとうございます、考えてみます!」
私ははい、と言いかける直前、理性が働いて考えます、と言う事が出来た。
今後の重要な分岐点だ。良く考えなきゃ・・・。
「うん、待ってるね、じゃあ!」
先輩は、笑顔で爽やかに手を振って去っていく。
うう、あんな笑顔見せられたら、入部への気持ちが傾いてしまうよ・・・。
いやいや・・・
私は首を振る。あんなに運動苦手なんだから良く考えないと、テニスなんて一生かけてもちゃんと打てる気がしない・・・。
でも・・・
私は先輩の笑顔を思い出す。優しい笑顔。
なんか・・・
なんだかんだ悩んで入部してしまう気がする・・・。
私にはそんな未来しか見えてこなかった。
3/30/2024, 12:54:43 PM