#ゆずの香り
「珍しいな。」
「そ、今日は冬至だからね。」
どうりで風呂に柚子の皮が沈んでいた訳だ。
中身はどうしたんだろうと思ったが。
目の前で酒になったようだ。
「年末近いから厄除けしなきゃ。今日はとりわけ夜が長いんだよ。」
「お前はもう風呂は済んだのか。」
「ううん、今から入る。」
「それなら代わる。お前はゆっくり入って来い。」
ちょっとしたサプライズだ。
時間も掛かる、と言えば素直に着替えを取りに行った。
そうは言っても材料は冷蔵庫にある物だけだ。
4個で138円の洋梨のヨーグルト、
238円のホットケーキミックスがあと1袋、それと。
「ん?」
記憶違いが生じたらしい。困ったな。
ーーー
「パンケーキだぁっ。しかもシューアイス乗ってるっ。可愛い。」
ーー可愛いのか。
パンケーキの上にゆずを混ぜたヨーグルトソースの更に上にシュー生地に包まれたバニラアイスを半分に切って乗せた。
「普通のバニラアイスが無くてな。」
「え?全然気にしなぁい。これ可愛いよ。」
「そうか。」
「うん。今度はイチゴ味買う。ピンクだったんだよねー。」
予定では、バニラアイスをカレースプーンで掬って乗せるつもりだったんだが。
シューアイスじゃ、仕方なかった。
そうだな。
前の俺ならダメな奴だな自分は、と責めていただろう。
何にでも完璧である事を強要する所だが。
彼女が可愛いと言うのなら充分、成功だ。
まじまじとシューアイスの乗ったパンケーキを見る。
その間に彼女が作りかけていたゆず入り酎ハイが出来た。
「いただきまぁーす。」
にこにこしてる彼女が居るなら。
俺は完璧じゃなくて良い。
傾けたグラスからゆずの香り良い匂いがした。
12/23/2023, 4:09:10 AM