【鐘の音】
この場所で泣き出してから休みなく泣き続けてきた
呼吸の仕方を教わっていないから
子守歌替わりに聞こえる暴言の意味も分からないから
どこかの物語のように助けてくれる人もいないし
僕に足を止める人もいないことも分かっていた
だから目をぎゅっと瞑って
誰も居ないどこかに行きたいと願った
夢の中で訪れた地図に載っていない
どこかの街の大きな時計台
柔らかな風が葉を揺らす音と共に聞こえる鳥のさえずり
時計台の主は大きな髪を風に靡かせて僕を見て微笑む
世界の全ての光が彼女から生み出されるようだった
今まで触れたことも無い温かな光に
自分が消えてしまうかと思うほどに
誰も居ないどこかを願ったはずなのに
そこは僕と彼女2人の世界だった
何百年も前から続く素敵なおまじないらしい
誰もいないはずの時計台が鐘を鳴らして
それを合図に歌いだす彼女
誰にも祝われたことの無い生を
初めて祝福された気がした
誰かの世迷言さえも本物に変わる瞬間だった
幸せも束の間、目覚めの怒号が世界を壊していく
思わず手を伸ばす僕に変わらず微笑みをくれる彼女
『また逢えるから』そう言われた気がして
勝手に片側だけの約束を結んだ
目を開いていつもと変わらない景色の色を見る
だけどもう涙は止まっていた
2024-08-05
8/5/2024, 2:01:40 PM