あやや

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クリスマスの過ごし方


 閑静なというほど閑静でもない、そんな普通の道路沿いの道の、とある横断歩道で足を止める。雪が降っていた。ホワイトクリスマス。もごもごと口の中だけでつぶやく。
 わたしにはどうにも感情がわからない。正確に言うとなんだか薄すぎて、何にもわからない。
 目に浮かぶ光が薄くて誰もわたしの感情を理解しない。結局のところ、誰も理解できないところが、わたしのこの感情の薄さの1番の厄介なところであった。
 雪が降って、肌につくと溶けていく。しかしマフラーには粒が付いて、触れると冷たい。そんなわたしを通行人が無視し、たまに痛ましそうな目をして、通り過ぎていく。わたしは手に持った花束を、他にも色々供えられたところに一つ置いて、そこを去った。
 しばらく歩いて、路地裏に入る。わたしは立ち止まり、コンコンと空をたたく。一拍おいて、路地裏の光のささない暗さに、異質が混じり、ドアが開くような「キィ」という音がして、眼前に枠が現れる。
 真白い枠、おおよそドアぐらいの大きさであるそれに、わたしは躊躇なく足を通して入る。
 と、そこは先ほどの風景とは全くもって違う。木々の狭間にわたしはいて、冷たい風がザワザワと葉を動かしている。わたしは躊躇わず、木々の間を潜り抜けて進んでいく。
 土を踏み、靴に泥が跳ねる。木に触れるとガサガサとした皮の感覚が伝わる。
 進み続けて3分ほどで、木々に光が遮られた空間から、強い光が一点差し込んでくる。そこが目的地だ。
 光の方へと歩いて、先を見ると、墓石がずらりと並んでいた。墓園だ。各々名前が刻まれて、死を告げている。
 わたしはひょいと木から抜けて墓園に入り、墓石の一つに近づくと、右手に持った紙袋から花束を取り出した。それを墓前に供える。そしてその隣にも、その隣にも、隣の隣にも、隣の隣の隣にも、全ての墓石に花束を置いていく。
 何十個もの墓石へと、明らかに容量の足りない紙袋からそれでも花束は次々と取り出されて供えられていく。一面の灰色に、鮮やかな色彩が侵略する。
 そうして、全ての墓石に花束を供えてわたしはまた、空をたたいた。キィと音がして、また枠が立ち現れる。そうしてわたしは足を差し込んで次へと赴く。紙袋の花束はいつまでもなくならない。



 (ゲ謎を見たんですが多少の影響を受け、クリスマスに花束を各地に供えていく善良人外の話です。感情が薄いなりに善行しようと頑張ってる)
 

12/26/2023, 4:28:16 AM