飯井 さけ

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「ええと、ここじゃないんですか?」

「アイツの家に行く」と、ジャッド・レッグから言われ、案内された場所は、簡易的な白い柵で仕切られた土地の中に、家どころか建築物一つ見当たらず、花実が見たこともない種類の草が群がって生えているだけの空間だった。

「……おかしい」
ジャッドは顎に手を当てて呟いた。
「ここで間違いないはずなんだが」

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花実がジャッドの話を詳しく聞いてみてわかったこは、二日前までは確実に家があったということだ。写真も残っており、実際にジャッド本人が鍵を使って家の中に入った記憶もある。しかし、今事実としてこの場所に家は無い。
たった二日で、家が勝手に取り壊されるとは考えにくい。

「これは、魔法の力のせいなんですか?」
花実は恐る恐るジャッドに質問した。
「……魔法のせいだろうな。今の俺には感じられねぇが、まぁ間違いないだろ」

花実は下を向いた。
ここで、とてつもなく大きな力が使われてしまったのだろうか。仮に、ジャッドが初日に言っていたことが本当で、ローゼが生きていたとしても、今は帰る家がない状態になってしまっている。その事実が心を強く痛め、花実は胸を押えた。

「アイツは生きてる」
ジャッドははっきりと、花実の顔を見て言った。
「今はここではないどこかに身を潜めてる。だから絶対、帰ってくる」




【ここではないどこか】フィクション作品 #2

6/27/2023, 12:49:11 PM