Ryu

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娘が幼い頃、知り合いから貰ったぬいぐるみがお気に入りだった。
その名も「ニャニイ」ちゃん。
いや、娘がアンパンマンの映画から拝借して付けた名前だが。
クタクタのぬいぐるみで、持ち運びやすいのもあってか、どこへ行くにも一緒だった。

公園に遊びに行く時も、家族で旅行に行く時も、必ず持っていったから、写真にはたくさん残っている。
時が経つにつれ、薄汚れていったのも見て取れて、それだけ愛されていたんだなと伝わってくる。
そんなニャニイちゃんは、ある日、電車のシートに置き忘れられて、サヨナラとなった。
もちろん、問い合わせて探してもらったが、見つからず。

娘はグズって泣いたが、その反応は親が思っていたほどではなかった。
興味が次のグッズに移るのは早く、親の方も元気付けようと奮発したおかげか、それほど引きずることもなく、ニャニイちゃんは我が家から姿を消した。

むしろ、ショックが大きかったのは親の方、いや、父親の私の方だったかもしれない。
なんだか、家族の一人を失ったような…いや、そこまではなくとも、娘の友達が行方不明になってしまったような、なんとか探し出してあげたい気持ち。
一人、電車のシートに取り残され、どこまで連れて行かれたのか。
汚いぬいぐるみだと処分されたか、どこかにひっそりと保管されているのか。

何も分からない。
喪失感だけが残った。
あの後、同じようなぬいぐるみを買いたいと探し回ったが、これだ!ってのは見つからなかった。
残されているのは、幼い娘が大事そうに、もとい、振り回すように手に持って写された写真のみ。
クタクタのぬいぐるみだったから、いつもギュッと握りしめられて…ずっと離さずに一緒だと思ってたんだけどな。

ちなみに、アンパンマンのニャニイちゃんは、その名の通り夢猫の国の住人だったが、我が家のニャニイは、小さなバッグに入って顔を出すタイプの虎だった。
猛獣だった。
幼い娘は、いつも公園で猛獣を振り回してた。

9/10/2024, 12:53:46 PM