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 夜でも、この街は喧騒に溢れている。
 塾講師のバイト帰り、仮にも駆け出しのバンドマンである自分がスーツにメガネというらしくない格好で足早に帰路へ着くのをどこか滑稽に思う。大きな広告のモニターからは、キャッチーなメロディーが流れていて、思わず顔を上げた。
 視線の先、街の象徴みたいなそのモニターから、いつか自分の音楽を響かせられたら。それは、どんなに素晴らしいことだろうか。 きっと、そんなステージはまだまだ遠いけど、いつか必ず。
 なんて、そんなちっぽけな対抗心を抱えながら、昨日思い付いたばかりの“自分の音楽”を口ずさむ。
 ネオンライトが、昼さながらの眩さで道を示していた。

7/19/2024, 2:11:36 PM