一尾(いっぽ)in 仮住まい

Open App

→いただきます。

 関西ではこの時期になるとスーパーマーケットや八百屋にウスイエンドウが出回り始める。ぽってりした薄緑色の鞘に春の息吹を感じて心が少し浮き立つ。豆ご飯の季節だ。
 ウスイエンドウは和歌山産がほとんどで、他の地域出回る機会は少ない。関西以外に住んでいたとき、それを知って驚いた。
 鞘をパコッと割り開く。中にぎゅうぎゅうに身を寄せる豆は、指を入れる隙間もなくて取れにくい。半身になった鞘に何とか指をねじ込んで豆をパラパラ外す。豆はほんのり湿度を帯びていて、指で摘むと薄い皮の瑞々しさが伝わってくる。
 豆も鞘も水洗いしておく。鞘を先に煮て、その茹で汁で米を炊く。その間に豆を塩茹でして、米が炊き上がってから加える。そうすると豆にシワが寄らない。
 鼻をくすぐる青い香りのするご飯。白いご飯に鮮やかな緑。緑は春の色だ。生命の力強さ。芽吹きのときに備えた栄養をたっぷり含んだ豆はわずかに甘い。口の中でポクポクと噛む。楽しい食感。これだけでご馳走。おかずは具だくさんの味噌汁があれば上々。
 あっという間に空っぽのお茶碗。大満足の春先取り。
 ご馳走様でした。

テーマ; 芽吹きのとき

3/1/2025, 6:57:59 PM