シシー

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 紅を差して、今日もまたステージにあがる。

 トンッ、と弾みをつけて光の真ん中へ飛び込む。
手首につけた鈴をシャンシャンと鳴らし、鮮やかに染められたシルクを泳がせる。
 ほう、と嘆息を漏らす客の姿を確認して自然と口角が上がる。曲と曲の間で動きを止めると焦れた様子の客がコールする。

「舞ってくれ」

 ただその一言に従順であること。それが私の仕事だ。
 客を楽しませてチップを上乗せしてもらえるように愛嬌を振りまくのも忘れずに。特に熱心に観ている客にはサービスしておく。

「待って」

 ステージから降りた途端に呼び止められる。振り返ると真っ赤な顔をした酔っぱらいが金貨をひらつかせ、いやらしく笑っていた。定番の誘い文句を言おうとするから手近な見習いを呼び寄せて花飾りのついた籠を酔っぱらいに向けさせる。
こういう店では舞手や見習いに手を出すのはタブーである。見習いに気をつけるよう耳打ちして、ウエイターに告げ口しておいた。これからあの客は出禁になるだろう。

「夢をみるのは勝手だけれど、ルールは守らないとね」



               【題:まって】

5/18/2025, 11:37:58 AM