とうの

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黄泉帰り

手を、繋いでいた。真っ暗な洞窟は、私のすぐ前を行く彼の姿をも闇に包む。確かなのは、まだ恋人でもないのに繋いだ右手の感触だけ。ふたりの足音が岩肌に響いている。
「きっともうすぐだよ。ほら、微かだけど光が見える」
振り向いてはいけないという言い伝えがあるため、彼はずっと前を向いている。
「───ここを出たら、ずっと君に言おうと思ってたことがあるんだ」
洞窟で結露した水滴が音を立てた。
「…どんなこと?」
「今は、言えないよ。ここじゃ顔も見れないし…それじゃあ君を連れ戻すためにここまで探しに来た意味がなくなっちゃうじゃないか…」
「…お願い、今、言ってよ」
私は涙声になっていた。今じゃないと、だめなのだ。右手に力が入る。立ち止まってはいけないという言い伝えもあるため、彼は足をとめなかった。少しの沈黙があって、彼は口を開いた。とても穏やかな声だった。
「───君が好きだよ。きっと、君が考えてるよりもずっと前から」
前方の光がだんだんと強くなってきた。外が近い。
「───ありがとう」
人は、命を失ったらもう取り戻せないんだよ、だから私は、もう戻れない───とは言えなかった。光は目の前にある。私たちが向かっているのか、光が迫ってきているのか。
「私も、好きだったよ」
これが、精一杯だった。
この声が彼に届いたかどうかは、分からない。


12月9日『手を繋いで』

12/9/2022, 2:11:11 PM