今日のテーマ『街』
本日の業務終了。
バイトが終わったので帰路につく。自宅に向かって歩く道すがら、俺は「はあ…」とため息をついた。
疲れているせいではない。いや、正直に白状すると少し疲れていたが、そんなことよりも変わっていく街並みに物悲しさを感じて気分が沈んでしまったのだ。
たとえば、ついさっき通り過ぎたうどん屋。感じの良い店主のおっちゃんが切り盛りするカレーうどんが激ウマな店だ。が、いつの間にか潰れてしまった。
閉店した後も建物自体は健在で看板も掲げられたままになっているが、あの妙にがたつく横開きの戸を開き、紺色の暖簾をくぐって入店し、コスパ最強のカレーうどんをおっちゃんに注文することはもうできない。
「はあ……」
憂鬱になる。
たとえば、さきほど通り過ぎた行きつけの店だったコンビニ。これもまた、うどん屋と同じく、いつの間にか潰れてしまっていた。
思い返せばこのコンビニにはよくお世話になった。
バイト帰りに立ち寄って、おにぎりやカップ麺、お菓子やお酒をカゴに入れてレジに持っていくと、店員のおじいさんが「お疲れさん、いつもありがとね」と声をかけてくれた。仲良く雑談するような間柄ではなかったが、その何気ないおじいさんの声かけが嬉しかった。
今の俺に「お疲れ様」と言ってくれるのはバイト先の店長と同僚くらいしかいない。
おじいさんの「お疲れさん」が恋しい。
「はあ……」
憂鬱が加速する。
たとえば、いましがた通過した老舗っぽい感じのお寿司屋さん。
ここは今も営業している。さすがは老舗だ。
俺は行ったことないけど、出てくるお寿司はさぞや美味しいに違いない。
「はあ……」
お金持ちになったらいつか入ってみたいけど、そんなときがくるかどうか怪しいものだ。やっぱり憂鬱になる。
……と、まあ、そんな感じで『街』は少しずつ変化していく。それに伴って少しずつ寂しくなっていく。
(いや、そうでもないかもなぁ……)
立ち止まり、現在工事中の敷地を眺めて思いなおす。ネットで調べたところによると、この場所に大型のディスカウントストアが建設されるらしい。それはつまり、自宅のアパートから離れた場所にあるスーパーに行かなくても、バイトの帰りにここで買い物してそのまま帰れることを意味する。しかもディスカウントストアなので品物が安い。俺にとって良いこと尽くめだ。
「はやくできないかな。楽しみだなぁ」
下降の一途をたどっていた俺のテンションは一気に平常値まで回復した。
このように『街』は良くも悪くも変わっていく。
ふと考える。俺はどうだろうか、と。
わからない。そもそも変化するのが必ずしも良いことなのだろうか。変わらない良さっていうのもあると聞くし…
しばらくボケーっと考えてみたが答えは出なかったので、とりあえず、いつもと違う道を通って帰ってみることにした。
すると見慣れた『街』の光景が、いつもと少しだけ違って見えた。
6/12/2024, 12:13:40 AM