朝なんて来なければ。ずっと、そう思っていた。こんな思い通りにならない世界なんて、もうどうでもいい。
「はっ、はっ」
私は走っていた。何故かは分からないし、そもそもここがどこかも分からない。ただ、止まってしまうことだけが怖かった。
「…っ!」
不意に、何かが右腕を撫でる。その瞬間、腕の感覚はなくなって、ただ、冷たさだけが残る。
逃げなければ。
何から?
分からない。
ただ、この場所から。
「…誰、か…!」
喉の奥から絞り出した言葉は、誰にも届くこともなく、ただどこかへと流れていく。それが、最後の瞬間だった。
「……ん……」
何だろう、体がすごく重い。それに、周りがなんだか騒がしい。ぼんやりとした視界には、見慣れない、白衣を着た女性。
「……ああ、そっか」
そうだ。確か、何かがぶつかったんだ。それも、すごい勢いの何かが。と、言うことは。
多分、もう少しで、私は死んでいた。
……何てわがままなんだろう。朝なんて来なければ、ってずっと思っていたのに。こんなに、目覚めたことが嬉しいなんて、思うことなんてなかったのに。
窓の外を見やる。カーテン越しの朝日の温もりを、嬉しいと思ったのは、きっとこれが、初めての朝だった。
6/10/2023, 5:59:18 AM