『さらさら』
「沙原さんの髪、さらさらでめっちゃ好き」
七海との初会話はそれだった。
高校に入学してすぐの話で、流石に当時は困惑した。
話したこともない人が突然そんなことを言い出すものだから。
「そ、そうかな?ありがとう」
私がぎこちなく返すと、七海は私の前の席に座った。
机に肘杖をついて、くりっとしたまんまるな目で私を見つめ、
「私、おんなじクラスの小林七海!一年間よろしく」
にかっと眩しい笑顔を見せる小林さんは、太陽みたいだった。
私の対極に存在する存在。それでも私達は親友だった。
私に差す唯一の光はどこまでもあたたかくて、大切だった。
だから本当は喧嘩別れなんて、したくなかったのだ。
きっかけは些細なことだった気がする。
詳細は覚えてないけど、受験直前でピリピリしていた。
なんとなくすれ違って、全く言葉も交わさないまま。
同じ大学を受けたのに、結局私だけが落ちた。
私はそれがショックだったのか、悔しかったのか。
よくわからない感情のまま、仲直りすることは叶わなかった。
「七海、私のこと覚えてるのかなぁ」
ふと言葉が溢れる。
七海は私と違って人当たりがよく、友達が沢山居た。
私一人が居なくたって、寂しくなんてないだろう。
…私と違って。
あぁ、寂しいなぁ。
私は鏡に向き合って、髪にヘアアイロンを当てる。
七海が好きだと言ってくれた私の髪を、大事にしたいから。
あの日のまま、さらさらの髪のままで。
そうしたら、いつかまた出会える日が来たら、
私のさらさらの髪を褒めてくれるだろうか。
5/28/2025, 10:18:06 AM