無色の世界(物凄く長いです)
僕の世界には、色がない。
黒白と明暗だけで描かれた、色のない世界。
人も、食べ物も、花すらも全てがモノクロなのだ。
僕は花や動画すらも楽しめない。だから、僕は小説を好んで読んだ。
いつしか、この世の全ての小説を読み切ったんじゃないか?というほど、僕の部屋には小説が増えた。
もちろん、読むうちに嫌いなジャンルや好きなジャンルも出てくるわけで、好きなジャンルを読んでいたら、読書には飽きてしまった。いや、僕は寧ろ褒めて欲しい。この二十三年ほどの人生の娯楽をずっと読書のみで過ごし、そして二十三年間飽きなかったというのだから。
そして僕は、新たな趣味を見つけた。
それは「執筆」だ。最初は生活の随筆だったものを、フィクション作品を執筆することにしてみた。二十三年間の読書人生で培われた語彙と発想力を活かし、自画自賛をしてしまいたくなるほどの作品が次々と完成された。
そして、自分の作品に愛着も湧いたが、同時に今までにはなかった承認欲求も生れた。これもひとつの色か、なんて自嘲してみるが、だからといって承認欲求が消える訳でもなく、気づくとあれよあれよという間に出版していた。僕は、その作品の自信からの高揚感に駆られ、それまでの過程は全くもって覚えていない。
それからというもの。
僕の作品は世間様に評価され、殆どが好評であった。批評は、どの作品にも理不尽に批評をつけるようなこっぴどい批評家のみで、全てが好評であったといっても過言にはならないだろう。
僕は、一気に有名人になった。僕の承認欲求も満たされ、親からの仕送りで生活していた生活費どころか少し贅沢できるほどのお金を稼げるようになった。
だが、楽しくない。皆、評価で書くのは同じような文言のみ。無論、褒められている訳ではあり心地の悪いものではなかったが、つまらないのだ。
サイン会やら、なんならあるが、「面白い」「表現が綺麗」だのなんだの。聞き飽きた抽象的な常套句のみで、僕の渾身の中身の感想を具体的に伝えてくれる者などありゃしない。
売れたら世界に色が着くか?そんなことない。
そんなある日だった。
普段は気分を害するので見ない、批評を見てみた。
驚いた。心の底から、驚いた。
僕のファンより、もっとずっと、中身のある感想を書いていた。
そうだ、僕はそれを表現したくて書いたのだ。それに気づく者がいたとは。と、感動した。読者の中でも、読者の感想の中でも、極めて異色な存在。
気づくと、過去の感想から全てを読み漁っていた。
次の新作記念サイン会、その「批評家」であろう人物が現れた。
人々がいつも通り居心地の悪い、単純で面白くない感想を並べていたところ、彼女は僕の新作の感想の至らぬ点を嫌味たらしく述べた。僕はあの「批評家」が女性であったことに少し驚いたが、それよりもサイン会の時間ギリギリまで使って述べた批評の中身に、感動した。これまでに無いくらい。気づくと、彼女を引き止めていた。
「待って。」
彼女は少し驚いて振り返る。
「君の感想を、もう少しだけ聞かせてくれないか。」
周りの読者、スタッフが唖然とする。だが、僕はもうそんなの見えていなかった。
僕の世界に、はじめて色がついた気がした。否、着いたのだ。
それに感動すると共に、僕はあることに気づいた。
周りを見渡した。
色がある。はじめて読者の顔をちゃんと見た気がする。全てに、色があるのだ。
僕は気づいた。
僕は色盲だったのではない。
ただ、ただ、興味がなかったのだ。
彼女は、僕にとって初めての「異色」な存在であった。
4/19/2026, 2:03:56 AM