「優しい雨音」
消えちゃうぐらい小さな声で。
忘れてしまいそうな細い声で。
...別れをこの世から消えてしまった事実を告げる
辛くて痛々しくて聴いていられないくらい苦しそうな
君の両親を俺はどうするのが正解だった?
暖かく声をかければいいのか。
俺を自分達の娘を最後まで守り抜けなかったと、恨んでもいいような人達に。
残念でしたね。って
声をかければいいのか。
それは、失礼なんじゃないのか。
自分も悲しんでいると、告げればよかったのか。
それは、自分勝手じゃないのか。
なんにも分からなくて、なにも言うことが出来なかった。
いつものように家でダラダラしていたら、電話がかかってきた。
彼女の両親だって言う。
沈黙が続いて、しばらくたってようやく聴こえてきたのは鼻水をすすって居る声で、異変にはすぐに気がついた。
途切れながら、一言ずつゆっくりと。
君がこの世から消えた事を告げる言葉は
重くて、でも電話で告げるには重すぎて。
家の外から聴こえる冷たくて暗く、強い雨音は
まるで自分が打たれていると思うほど大きく近く聞こえて俺の、俺達の心を凍らすには十分だった。
告げられてからしばらくして沈黙が再び訪れた。
電話の奥から聴こえる雨音が彼女が居ないことを肯定しているようで本当に彼女はもう居ないだ。って
自然な気持ちで想った。
なんだか急に心が落ち着いた。
本当に辛いときこそ冷静になるということは本当だったらしい。
そんな沈黙の中でも彼女の両親のすすり声は聴こえてきて。
俺はなにも言えなかった。
そうですか。もなんだか違うし。
残念でしたね。もなんだか違う。
迷って迷ってもなにも浮かばなかった。
というか考えられなかった。
君と居るうちに俺の考え方も感じ方も変わった。
別にだからじゃないけど中々俺にはなにも分からなかった。
それからしばらくたって彼女が交通事故で亡くなったことも。
運転手が飲酒運転をしていたことも分かった。
受け入れられるようになった。
彼女の事を想って夜に一人で泣くことも少なくなった。だからといって彼女のことを忘れたわけじゃない
覚えているからこそ、泣いていてはいけないと思ったんだ。忘れないように色褪せないように大切に大切に
心のなかに閉まって置かないと、と思ったんだ。
雨ってものは冷たくて暗いものだ。
でも雨は人を救うことも、涙を隠すことも出来る。
それに雨は暖かく優しいものもある。
そんな雨に打たれるのは心地いい。
俺の俺達の心を溶かすにはぴったりだと思うだろ?
雨は人を救える。涙をあの世から隠すことだって
出来るだろう。
「優しい雨音」
5/25/2025, 12:23:17 PM