2000年、あの時代は私たち若者が、
影しか追うことができなかった時代である。
1995年、2002年。この世には稀に
空白の時代が現れる。
その空白は若者には刺激が強すぎる。
私は知らない。その時いなかったから。
私はわからない。
影しか追うことができないから。
≪音を追うもの≫
「かっけぇな」
「だろ? これが2000年代の光だよ」
高校性が二人、
夏休みが始まったばかりというのに
変わらず校舎の一角にたむろするのは
習慣なのだろうか。
「なんてバンドだっけ?」
「それがわかんねぇのよ。レコードは発表するけど、いつもバンド名が書いてないのよ。
だから【影】って呼ばれてる」
「影って...結構ハードなロックだったが、暗いイメージなんてどこにも感じなかったぞ」
「まぁ影ってのはそのバンドの影しか追えないからだろうよ、とっくの昔に解散しちまってるし」
その日は警報が出るくらい暑い日だった。二人は駄菓子屋で買ったラムネを飲んでいた。
空には立派な入道雲、道路にはびこる陽炎たち。野球部の掛け声だけが清々しく耳を通り抜ける。
「こんなアッツイ日でも野球部は通常運転なんだな」
「そりゃ当たり前だろうよ、去年甲子園一歩手前まで行ったんだからな」
「それもそうか、熱血人間たちに敬礼!」
『敬礼!』
二人はそう言って、三階の音楽室へと向かった。
そしてしばらくして鉄線を掻き鳴らす音が
聞こえてきた。
しかし、この青い音も長くは続かない。
校舎に響くのは蝉の音と、
ラムネのビー玉が転がる音だけだった。
5/1/2024, 7:26:01 AM