左様なら

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あんなに聴いていた君の話し声を、ある朝目覚めた僕は思い出せなくなってしまっていた。何があった訳ではない。ただ、記憶が劣化したのだろう。君の話し声は、聴けなくなってしまってからもう随分と経っているから。
それでも朝日を含んで揺らめくレースカーテン越し、僕は君の話し声の名残りを探した。
ああ、少し低くて、とびきり優しい声だった。緩やかな語調に、僕は何度癒されただろう。こうして表現する事は今だって難しくない。
けれど結局、頭の中でその声を再現する事は叶わなかった。柔らかい朝日に、君の話し声の記憶は溶けていってしまったのだ。
頬に冷たい涙が伝う。僕は独り、真に君と離別するここまで、随分と遠くまで来てしまった。

2/8/2025, 2:28:35 PM