誰もがみんな
――誰もがみんな幸福だと言える世界があるならば、どんなに素晴らしいだろうか。
俺はパソコンのキーを打つのを止めて、淹れておいたコーヒーを口にする。
「誰もが幸せ、ねえ……」
ため息交じりに出た言葉に皮肉めいた響きが混じってしまった。それはきっと、一人の不幸の上に多くの人の幸せが成り立つあの話を思い出したからだろう。
「そりゃ、理想はみんなが何の犠牲も払わず幸せになるのが一番だ。けど実際問題“何も無し”は無理だろ。なあ?」
俺が仕事に集中している間、ずっと膝で寝ていた愛猫のわらびに声を掛ける。この名前の由来は、わらび餅に似ているからという単純なものだ。
わらびは耳を少しだけ動かし、先程の俺と同じようなため息を吐きながら一声鳴いた。
「うんうん、お前も俺と同じかあ」
言葉を勝手に解釈し、桜の形をした片耳を優しく撫でる。
「とりあえず、俺はお前の幸せを維持しねえとな」
膝の温もりを感じながら、俺は再び文章の海に思考を沈めていった。
日々家
2/10/2024, 11:15:47 AM