花片を一枚〈ひとひら〉風に流す。
ひらひらと風の赴くまま、舞う白を見上げて。
どうか想いが届くようにと願った。
「何それ?」
「おまじない」
月見草の花片を千切る。花片に願いを込めて口付けて、そのまま風に流せば、隣に座った彼は不思議そうに首を傾げた。
「願い事?」
「うん。逢えない人に、気持ちが届きますようにって」
「そっか」
優しく笑う彼の左手に、そっと右手を重ねてみる。
明日も一緒に生きていけますようにと、密かに願いを込めて。
「届くかな」
「届くよ」
「そうかな。そうだといいな」
もう一枚、花片を千切る。
二度と届かない相手に、伝えたい想いを乗せて。
「ありがとうって、伝わればいいな」
たくさんの、ありがとうを。
私を生んでくれた事。育ててくれた事。見守ってくれた事。
今ここで明日を待てるのは、あなた達がいてくれたからなのだと。
祈りを込めて、白を空へと解き放った。
「届くよ。シロはずっといい子だから」
重ねていただけの手が繋がれる。
「寂しくても、悲しくても、泣かないで前を向けるツキシロを、きっとみんな見てる。だから、大丈夫」
そう言って微笑む彼は、いつだって私が望む言葉を与えてくれるのだ。
もし。もしも。
花片と一緒に、この空を風の赴くままに身を任せて飛べたなら。そうしたら、届かない人達に逢う事ができるのか。
「ほら、そろそろ帰るよ。それともまた抱えてく?」
「っいらない!バカ」
繋いだ手は離れない。
だからきっと、明日も空に憧れながら、彼と共に地に足をつけて生きていくのだろう。
20240515 『風に身をまかせ』
5/15/2024, 1:52:19 PM