繊細な花
彼は花みたいな人だった。
花と言っても、明るい色の活力があって、日向に咲くたんぽぽみたいな花じゃない。
日陰にひっそりと咲く、どちらかというと暗い色の、でも綺麗で夜月が似合いそうな、繊細で少し触れただけでも壊れてしまいそうな花だった。
そんな彼は、転校生だった。冬の雪の空によく似合う、濡れ羽色、とでも言おうか、そんな色のサラサラな髪が特徴的で、顔も整ってる方だったと思う。
それより印象的だったのは自己紹介だ。
「それとおれ、一年後には死ぬので。」
情を入れすぎないようにね、と彼はなんの変哲もない自己紹介の最後にぽつり、と呟くように爆弾を落としていった。
私の後ろの空いていた席にすわる彼。
正直、やばいやつだと思った。
だって自己紹介で死ぬことをサラッと言う奴、もしくは厨二病。
でもその最悪な第一印象かき消されることになったのだ。
ちょっとおかしいとこもあるけど、普通にいいやつだったし、私と同じ美術部で、よく私の作品を褒めてくれて、移動教室でも一緒にいてくれるし、なんなら休日も遊ぶほど仲良くなってた。
本当に、天然っぽい、普通な、普通な奴だったんだ。
だからかな、彼が最初に、自己紹介の時に落とした爆弾も彼なりのおふざけだったのかなって思っちゃったんだ。
だから、信じられなかった。
彼が、彼がいなくなるなんて。
初めに彼がいなくなるって本気で思いだしたのは彼の綺麗な濡れ羽色の髪が抜け始めた頃だった。
彼は抗がん剤でね、って笑ってたけど、内心は恐ろしかっただろうし、私だって怖かった。
それからはどんどんどんどん彼が私の知ってる彼じゃなくなっていった。
そして、今日は彼の葬式。
涙は出なかった。
涙は出なかったけど、隣にいた心地いい温もりがなくなってしまったのが、信じれなくて、また、「この作品は独創的で、儚くていいね。」とか、けなし半分、褒めるの半分ぐらいの部活で描いた絵の評価が聞けると思って。
本当に現実味がなくて、彼の死を受け入れられなかった。
綺麗な、薄い青色の絵の具で百合の花みたいなのを描いてた彼を思い出す。
「これ、おれみたいだろ?儚げ美少年って感じで!」
その時はたしかにね、と苦笑したけど、今ではあの花は本当に君みたいだったと思うよ。
繊細で、儚くて、綺麗で………
あぁ、無邪気に笑う君の姿が、まだ、まだ、瞼の裏にいてくれる。
泣けなくて、ごめんね。
6/25/2024, 2:18:27 PM