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『飛べない翼』

本当にどこまでも高く飛べる翼があればなんて……

人々が空を飛ぶ僕を指差し、神々が空を飛んでいるのだと話していた。
あの迷宮からまんまと逃げ出し、この世の自由を一身に感じていた。爛々と輝く太陽にさえ手が届きそうで、全能感と言うのだろうか?僕はこの翼に陶酔していた。
僕は神なんだ!僕はなんでも出来る。本当にそう思っていた。
父の忠告の声も、もう耳には入らなかった。
何処までも、何処までも僕は飛んでいけるぞ!誰も僕を止めるものなどいないのだ!

あの時、思い出せば良かったのだ。この翼をくれたのは父であって、凄いのは僕ではない。
父の言う事をきちんと聞いていれば……

翼の蝋は溶け、僕の身体は海へと落ちて行く。父の悲痛な顔が見える。あぁ、父さん。あなたは本当に素晴らしい。世界一の名工だ。
どうか、どうか、本当にどこまでも高く飛べる翼があればなんて後悔をしないでください。
どこまでも高くは飛べない翼。でも、父さんの作った素晴らしい翼だ。僕はこの翼を気に入ってるよ。
悪いのは調子に乗った僕なのだ。心から、あなたの息子であったことを、誇りに思います。

どうか、ミーノス王に捕まらぬ様に。どうか、逃げて、生きてください。

これが僕の最後の祈り。

11/11/2023, 11:46:36 AM