I love
ふと眩しい日差しで目が覚めた。
手で日差しを遮りながら、緩慢な動きでベンチの背に手を伸ばす。
かつて日曜大工で作った木製のベンチは、ギシギシ言いながらも何とか私の体重を支えてくれた。
頭を振って記憶を呼び起こす。
どうやら朝の陽気に誘われて、寝惚けてしまったようだった。
完全に体を起こしベンチに腰掛ける格好になった時、ふと自分の膝にくしゃっとした布が乗っていることに気がついた。
不思議に思い広げてみると、それは小さな花の刺繍がついた毛布だ。
これがなぜここにあるかを考えるより前に、懐かしいと感じた。
これは妻がよくかけてくれた物だった。
妻は小さな幸せを見つけるのがうまい人だった。
それは若い時も、この家に越してきてからも同じだった。
近所の衣料品店で買った品々に、好きな花を施していた。
かと思えば、次の日にはチューリップの球根を買って水を撒くのだ。
最期の時の控えめな笑顔さえ、自分の手にすっぽりおさまるような小さな幸せを届けてくれるようだった。
毛布をゆっくり畳み、庭を眺める。
ここを買った時は喜んでいた広い庭は、私にとっては無用の長物となってしまった。
もう随分と手入れもしていない。
ふと、その庭に鮮やかな白を見た。
光かと思ったそれは、一本のチューリップだ。
なぜ咲いているかはわからない。
だが、その花に水をあげている妻が、確かに見えた気がしたのだった。
6/12/2025, 10:53:48 AM