部屋に彼の姿だけ見えなかった。
「あれ、横山さんは?」
「知らへん、トイレとちゃう?」
「にしては長いなぁ」
その場の人間に聞いても誰も行方を知らないらしい。
そうなると考えられることはひとつしかない。
「今、雨降ってるか?」
「降ってるよ、気づいてへんの?」
「ずっとブースに居たから」
「それはお疲れ」
労いの言葉を貰った後、部屋から出て彼を探しに行く。
確か空き部屋があったはずだ。
ドアノブを回そうとすると開かない。ビンゴだ。
「俺、おるんやろ」
しばらくするとカチャンと音がする。
ドアを開くとやっぱりそこには蹲った彼がいた。
基本的に健康優良児な彼だが、時々こうなる時がある。
いわゆる気象痛だが、毎度毎度なる訳ではない。
疲労やストレスが蓄積して低気圧によって爆発するのだ。
その前に休ませようとするのだが、『大丈夫』『これくらいどうとでもなる』なんて言って頑なに拒むのだ。
どうとでもなっていないじゃないないか、全く何度目だ。
「あんた、腹壊したことになってるけど?」
「お前……」
「雨降ってるもんなぁ。久しぶりのハードワークははしんどいですか」
「べ「俺相手にカッコつけんでええって」
カッコつけててカッコイイと思った試しがない。自然体の方がよっぽどカッコイイっていうのは調子に乗るから言わないが。
「……いっつもお前これをこなしてんの?化け物やん」
「ルーティンワークやなもはや、むしろこれない方が調子狂うわ」
「……うぅ…」
「熱は……ないな。薬は?」
「もってきてへん」
「やろな思て持ってきたったで。ほい、水も」
「……ありがとう」
「あんたの番、後にしてくれ言うてくるわ」
引き返そうとすると、ぐいと物凄い力で引っ張られる。
体調不良でも馬鹿力は健在なようだ。
「……れよ」
「は?」
「ここおれよ言うてんねん!」
顔真っ赤にして何を偉そうに。でも、照れてまで俺を引き止めたかったと考えると悪くない。
「でも連絡せえへんかったらあんたと俺が2人でいなくなったみたいになんで?」
「そんなん、別にええ」
「さよか」
本当は全然良くないけど。彼らだって暇じゃない。大迷惑をかけることになるのはプロ意識が足りないのではないかとお小言を言ってやりたくなるが、そこは弱っている病人なので大人しく後で一緒に怒られよう。
「ほな、失踪しよか。雨が止むまで」
隣にしゃがんで雨音を聴く。苦しんでいる彼には悪いけど、
俺はこの時間が好きなのだ。
(もうちょっと独占させて)
作者の自我コーナー
いつもの、ですがない話です。2人とも偏頭痛持ちというのは聞いたことがありません。でもお互いが弱みを見せれる相手だったらいいなと言う願望。甘えられるのが嬉しい人とこんなときにしか素直になれない人。逆転現象も起こります。対極だけどたまには寄り添ってね。
5/26/2024, 2:02:18 PM