「あの頃の私へ」
……寝てた。知らないうちにもう夕方だ。少し腹が減ってきた。
もういい時間だから、そろそろ夕飯の支度をしようか。
眠たい頭を持ち上げて台所に向かう。
……さて、冷蔵庫には何があったかな。
「おやおや!!!もうお目覚めかい?!!」
あんたは相変わらずいつでも元気だな。
「当然!!!ここには面白いものがいーーっぱいあるからね!!!色々楽しみたいから!!!ボクはずっと元気なのさ!!!」
「あ、そうそう!!!今夜は何を食べようか?!!ボクねー、ジェノベーゼが食べたいんだ!!!ジェノベーゼって何って???バジルで味付けされたスパゲッティのことさ!!!」
……知ってるよ。だけど、バジルなんか家にないぞ?パスタを味付けられるソースみたいなのはあるけど、今は和風のやつとペペロンチーノしかない。
「ふっふっふ……そう言われると思って!!!ちゃーんと用意しておいたのさ!!!」
そう言ってスーパーのレジ袋からジェノベーゼが作れるソースを取り出す。……あんた、いつの間にスーパー行ったんだ?
「まあいいだろうそんなこと!!!でさ!!!コレSNSで美味しいって話題になっているらしいよ!!!ボクも気になって食べたくなったのさ!!!」
なるほど。作り方は……まあよくあるあれだな。「パスタに加えるだけで簡単に作れる」が謳い文句の商品。
「ボクはこっちでスパゲッティを茹でているからね!!!味付けは任せたよ!!!」
まあいいか。……ジェノベーゼソースとか作ったことないけど、「混ぜるだけで美味しい」らしいから、それを信じて。
「ねぇ、変なことを聞いてもいいかい???」
いつも変なことしか聞いてこないだろ。
「そんなことないもんねー!!!」
「まあそれはいいとして!!!本題に入るよ!!!」
「キミは、過去の自分にひとこと伝えられるとしたら、いつのキミに、何を伝える???」
過去の自分にひとこと?
……別に何もない。伝えたところで、どうにもならないだろう。
あ、強いて言えば……。
「お?!!なになに?!!」
数ヶ月前の自分に「マッドサイエンティストを自称するチョーカガクテキソンザイとやらが突然居候を始めるが驚くな。やかましいが特に害はない。」とでも言うかな。
「もっといい伝え方が!!!あるだろう?!!」
例えば?
「そうだねぇ……。あ!!!もちもちふわふわでかわいい宇宙一素晴らしいマッドサイエンティストが一緒に暮らし始めるから!!!優しくお出迎えしたまえ!!!とか???」
「他には……そいつは桜餅が大好物だから毎日のように準備をすること!!!それから!!!綺麗なお花をいっぱい見るために体力をつけておくといい!!!とかね!!!」
「ひとこと」じゃなかったのか?
「うぅ……。でもまあボクのことひとつとっても、これだけ伝えておくといいってことがあるんだ!!!だからね、」
「だから、過去は諦めるしかないにしても、未来は諦めちゃダメだ!!!今までのことがどうにもならないとしても、未来はどうにかできるのさ!!!」
「というわけで、質問を変えようか!!!将来こうなっていたいっていう願望を教えてくれたまえよ!!!」
将来なぁ……。何の刺激もなく、ゆったりのんびり暮らしたい。
それが願望、かな。
「悪くないね!!!ふわふわのにゃんこを抱っこしながら、あったかい部屋で本を読んで、気が向いたら昼寝をする……。」
「とてもいいじゃないか!!!キミらしくて!!!」
「そのためには!!!まず宇宙を救わないと、だね!!!キミの出番はまだまだあるから!!!手伝いをしっかりとしてくれたまえ!!!……ア!!!」
「スパゲッティが!!!伸びている!!!大変だ!!!……ほら、早速キミの出番だよ!!!スパゲッティを救いたまえ!!!」
……全く。
でも、あんたのいるこの生活、結構好きだよ。
いつまで続くのかはわからないけど、最後のその時まで。
よろしく頼むよ。
「こちらこそ!!!」
5/25/2024, 11:10:31 AM