川柳えむ

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 昔、秋の精を見たことがある。
 その子が秋の精だという確信があるわけではない。しかし、そうとしか思えなかった。
 その姿を見たのは一瞬だったが、こちらの視線に気付くと、すぐに姿を消してしまった。そして、冬が訪れた。
 その残像が忘れられなくて、ただひたすらに再び秋が訪れるのを待っていた。

 ようやく、空気全体が色づき始めたように涼しくなり、待ち望んだ秋の気配が濃くなってきた。
 もしかしたら、また会えるんじゃないかと、以前出会った場所へと赴いた。
 そこで姿を探してみたが、見つからなかった。
 それはそうか。警戒されているのかもしれない。
 残念な気持ちになって、空を見上げる。
 すると、視線の先から、一枚の葉がひらひらと舞い降りてきた。
 それを手にする。見事に赤く染まった紅葉の葉だった。
 まるでそれが君からの贈り物のようで、ポケットに大事に仕舞った。


『秋の訪れ』

10/1/2025, 11:04:12 PM