猫宮さと

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《1年前》
よく晴れた夜空に浮かぶ満月。
銀色の髪を月影に美しく輝かせながら庭に佇む貴女。
1年前にも全く同じ光景を見た。

そうか、あの時から1年が経ったのか。

私の存在が闇ならば、私はあなたに裁かれたい。
迷うことなく、その引き金を引いてほしい。

赤紫の瞳を一心に満月に向け、寂しそうにそう呟いた貴女の背中。僕が聞いているとは露とも知らず。
疑いを掛け監視の目を向けたのに、こんな僕に容易く命を預けた貴女。
そしてその預けた命を、僕を救う為に容易く捨てようとした貴女。

どうしてそこまで出来るのか?
知りたくはあるが、聞くことは出来ない。
それを聞いた時、決定的に何かが変わるだろう。そんな予感が頭を占める。
変化は良い方向かもしれない。が、今までの苦い経験がたった一歩を踏み出す心を押し留める。
今のこの幸せを手放したくない。
微かな願いの灯火は、優しい風にすら吹き消されてしまいそうな儚い光だから。

すると、視界でふわりと銀色の髪が揺らめいた。
月影の中こちらへ振り向き、満面の笑みを浮かべる貴女。
あの時とは違う、祝福の証である青紫の瞳が僕を映す。

1年前から、何かが確実に変わっている。
そして、決して変わらぬ物も確実に僕の中にある。
今日はその変わらぬ何かを支えに、一つの変化を起こしてみようか。
心に決めて、僕は彼女の手を取った。

6/16/2024, 1:47:03 PM