星乃 砂

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【ごめんね】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
 [5/27 月に願いを
 [5/28 天国と地獄
           続編

登場人物
 鬼龍院 加寿磨
 (きりゅういん かずま)
 金城 小夜子
 (きんじょう さよこ)
    玲央 (れお)
    真央 (まお)
 園子 (そのこ)
 椎名 友子(しいな ともこ)
  
「会社が倒産してしまったのよ」

父は社員100人程の会社を経営していた。社員の為に人力を尽くす人で、社員に慕われていた。
父が亡くなり母があとを継ぐには仕事の事を知らなすぎた為、創立当初から父と二人三脚で会社を支えてきた。常務が後任となった。
新社長の取り計らいで母は会長の座に着いた。反対する役員はひとりも居なかったらしい。父の人となりが伺える。
その会社が倒産してしまったのだ。
「加寿磨さん、ごめんなさい。この屋敷も手放す事になります」
ボクの地獄には底が無いのか。
返す言葉が見つからなかった。

その頃
♪ピピッ、ピピッ♪
小夜子は目覚ましを止め静かに起き上がった。まだ朝が明ける前である。
「お姉ちゃん、もう食べられないよ」玲央の寝言が聞こえる。
玲央、いっぱい食べさせてあげられなくてごめんね。
着替え終えると自転車に乗り30分の道のりを急ぐ。
母の実家へ越してきて住む所は心配無くなったが、働けるのが母だけでは、とても一家5人は養えない。
中学生ではアルバイトもままならない。
小夜子は高校生だと偽り新聞配達を初めた。
近くではバレる恐れがあるので、学区外でバイトしている。
配達を終え、帰りの途中でパンクをしてしまった。これでは帰れない。幸い今日は日曜日だ。近くの自転車屋さんで修理して帰るしかない。母に連絡を入れ、自転車屋さんが開くのを待った。
「おはようございます」
「おはよう。開くのを待ってたのかい、呼んでくれてよかったのに、パンクかい?」
「はい」
「どれどれ、あーこれはタイヤが裂けてるね。これは私じゃ無理だわ。今、父ちゃんが会合に行っていてまだ帰って来ないんだよ。悪いけど帰ってくるまで待っててくれるかい?」
「道具をお借り出来ませんか?自分で直します」
「大変な作業だよ。出来るのかい」
「はい、やった事ありますから。でも、今は、修理代を持っていなくて、後で必ず返しにきますからお願い出来ますか」
おばさんは小夜子をじっと見て。
「いいよ、あんたを信じるよ」
「ありがとうございます」
お礼を言い小夜子はタイヤを外しだした。
「あんた見かけない顔だけど、この辺の子じゃ無いのかい?」
「はい、隣り町に住んでます」
その後も作業をしながら、自分の置かれている状況を全て話した。
普段からそんな話しはしないのだが、この人は信じていい、この人なら私を助けてくれるかもしれない、そんな事さえ思えた。
「そうかい。まだ、中学生なのに大変な事だね」
テキパキと作業を進め修理が終わった。
「おや、もう終わったのかい。随分と早かったね」
「ありがとうございました。お金を取りに行ってきます」
「あんた、この後用事とかあるのかい?」
「いえ、ありませんけど」
「ひとつ、頼まれてくれないかい」
「なんでしょうか」
「実は私、これから出かけなくちゃならないんだけど、父ちゃんがまだ帰ってこないから困ってるのよ」
「はい」
「そこで、よかったら店番してもらえないかい」
「私がですか?」
「何人かパンク修理が来るくらいだから頼むよ。もちろんバイト代も払うし、今の修理代もタダでいいよ」
小夜子にとっては願っても無い事だ。
「分かりました。やってみます」
「私は園子。あんたは?」
「私は金城小夜子です。よろしくお願いします」
「父ちゃんにはメモを書いとくから、帰ってきたら見せとくれ」
昼近くになってご主人が帰ってきた。少し酔っているようだ。
「あんた誰だい?」
「私は金城小夜子といいます。おばさんから、お店番を頼まれました。これ、おばさんからの、メモです」
その時、丁度電話が掛かってきた。
「もしもし、あんた今帰ってきたのかい」
「田中の野郎がよ...」
「また呑んできたんだね」
「田中の野郎がよ...」
「そこにいる子にお昼食べさせてやってちょうだい。もうどこにも行かないんだろ?」
「田中の野郎がよ...」
「田中の野郎は、明日にしなさい」
「はい」
3時過ぎに、園子さんが帰ってきた。
「お疲れ様、ありがとう助かったよ」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「これ持って行っとくれ」
園子はお惣菜を小夜子に渡した。「そんな、頂けません」
「もらってくれないと、内も困るんだよ。ふたりじゃ食べきれないからさ」
「ありがとうございます。弟と妹が喜びます」
「新聞配達の帰りは内に寄っとくれ。あんたの顔が見たいからさ」
「今度、内で作った野菜持って来ます」
「楽しみだね。ありがとうよ」
その後、園子の家に行く回数が増え、日曜日は園子の自転車屋を手伝うようになった。
「ただいま、今日もお惣菜もらってきたよ」
その時、電話が掛かってきた。
「友子、久しぶり。実はね...」
「小夜子、大変な事になったの」
「えっ」
「カズ君のお母さんの会社が倒産して、カズ君引っ越してどっか行っちゃった」

           つづく

5/30/2024, 10:38:19 AM