ガタガタと揺すられる窓の向こうに沈む夕日を見ていた。右肩がだんだんと重くなっていく。
「すみません。ネギが落ちてました」
小学校二、三年生くらいの男の子が料金箱の前に立ち、奥に手を突き出している。信号待ちだろうか。停留所ではない場所でバスは停車していた。
運転手と会話を交わした少年が、斜め前の席に戻ってくる。「運転手さん、なんだって?」と尋ねる同年代の子どもの声がする。
周りの大人たちが聞き耳を立てているのが判った。こういうときの、なんというか空気がほわんとなる感じが苦手だ。
「捨てときますねって」
特に残念がるでもなく、少年たちはゲームの話題に戻っていった。
ネギの落とし主は帰宅後そのことに気づいただろうか。切れ端程度だったなら、彼か彼女だかの人生になんの影響も及ぼさなかったかもしれない。たぶんそんなことのほうが、多いだろう。これからも、ずっと。
悲しいのかホッとしたのか自分でもよく分からないでいると、隣から声がする。
「どしたの?」
ぼんやりした目であなたが訊いた。
「着いた?」
いつの間にか深い藍青に染まった世界で、あなたの瞳にネオンサインの緑が煌めく。青臭いネギの香りがした。
『君の目を見つめると』『沈む夕日』『これからも、ずっと』
4/9/2026, 9:40:05 AM