朝、目が覚めると見慣れない天井。
あたりを見回しても白、白、白。どこをみても白いのだ。
前日に会社の中で倒れそのまま病院に運ばれたのだろう。
毎日のように上司に怒られ残業の日々。心はとっくに悲鳴をあげていた。ついには体まで耐えられなくなってしまったのだ。
なんだか無償にあいつが作った豆腐の味噌汁が飲みたい。暖かくて、安心するあの味を今、無性に、体が欲しがっている。
もうずっとあいつには会っていない。会う時間がないのだ。
あいつからは何度も連絡があった。
会いたい。いつなら会えるの。仕事忙しい?
連絡を返せるのは日が登ってきた朝方。
本当はすぐにでも会いに行って抱きしめたかった。
けど、仕事を休む勇気も、辞める勇気もなかったから、返す返事はいつも決まっていた。
ごめん、仕事が片付かなくて。
声を聞いたらきっと耐えられないから、メールで簡潔に。
もう仕事は辞めよう。そして、あいつに会いに行こう。
ガラガラ
そんなことを考えていると病室の扉が開く。
そこにいたのは、キレイな花を抱えたあいつの姿。
泣きそうな顔で駆け寄ってくるからこっちまで泣きそうになって。
いっぱい言いたいことがあったのに出てきた言葉は短くて。
ごめん。
そしたらパッと顔をあげて目にたくさんの涙を溜めながらぎゅっと強く抱きしめられて。
久しぶりの温もりに、久しぶりの匂い。
それだけで重かった心はスッと軽くなって、我慢していた涙も溢れてくる。
それから二人でバカみたいに泣いて、声に気づいた看護師が先生を呼んでくれた。
その日は一日病院に泊まり、次の日には退院。
すぐに会社にも連絡して仕事も辞めた。
今は新しい仕事をしながらあいつの作った豆腐の味噌汁を二人で飲んでいる。
こんなに幸せで暖かいなら、もっと早くに仕事を辞めておけば良かった。
そう思えるくらい今はとても幸せなのだ。
8/3/2024, 4:52:54 AM