→『彼らの時間』跋文
ごきげんよう。
どんなに手入れしても無くならないアホ毛のような誤字脱字たちが、いっそのこと愛おしい。一尾(いっぽ)でございます。
えー、終わりましたね、『彼らの時間』。ストーリーをコンパクトにまとめようと試みた結果、文字数詰めすぎ、色々と問題据え置きなのは御愛嬌で。昴晴と父親との関係や、昴晴と尋斗のペアグッズ問題、尋斗のこれから、などなど。
ある程度、キャラクターに勝手をさせていたら、まぁこんな感じ。尋斗は昴晴に頭をぶん殴られてネジ飛んだかな? いきなりのプロポーズは驚きました。そして、昴晴の耳を舐めただけの当て馬・司の小物感よ……。結局なんだったんだろうね、彼。
最終話の杏奈ちゃんは無理矢理感がありましたが入れてしまいました。彼女がいると華やかで楽しいです。
一つの話が終わると、キャラクターたちに「ありがとね」と声かけします。よく動いてくれました。
そして、最大の感謝を伝えたいのはもちろん、ここまでお付き合いくださった方々です。本当にありがとうございます。皆様の忍耐強さ、天晴でございます。
書きたい内容はまだあるので、再び彼らの時間が動き出すようなら、生温い目で見守っていただけると幸いでございますです。
・小話 〜広報部長・八田さん〜
ベランダから望む夜景は、湾岸の高層階マンションのということもあり、とてもきらびやかだ。
しかし八田聡史はその景色に目もくれず、スマホの画面を食い入るように見入っていた。
写真ホルダーには彼の上司・綿貫昴晴のコスプレ写真が並んでいる。スーツは言うに及ばず、学ラン、ブレザー、パジャマ姿の頭にぬいぐるみヘアバンド、羽織袴まで……。写真の昴晴はどれも微妙な顔でこちらに笑いかけている。引きつった笑顔が何ともいい味だなぁ、と八田は顔をニヤつかせた。
八田の横に女性が並んだ。彼のスマホを覗き込む。
「また見てるんですか?」
呆れた声ながらも、彼女もまたスマホに釘付けだ。ツイっと指で写真をスクロールする。
「そんなこと言って山崎さんだって見てるじゃないですか」
「まぁ、そうなんですけど、見ずにはいられませんよ。あー、今日ほど自分が広告会社に勤めていて良かったと思ったことはありません」
午後、八田はプレス用素材が必要と昴晴を説き伏せ、前職の伝手を辿って撮影会を強行した。その手筈を整えてくれたのが山崎である。
仕事で使う写真もそこそこに、レンタルスタジオの使用時間ギリギリまで衣装を取っ替え引っ替え。慣れない撮影に応えようとする反面、「何か変だ」と警戒しながらも口に出せない昴晴の愛らしさは尊さを突き抜けて神棚行きである。
感極まる八田の横で「逸材ですね」と山崎が口にしたことから、二人は一気に意気投合した。あれほど熱い握手を交わしたのは初めてだ、と後に八田は語ったとか語らなかったとか。
とにかく、初めての推し友を得た八田は滅多と人を呼ばない部屋へ山崎を迎え入れた。もちろん綿貫昴晴を熱く語るためだ。
「それにしても期待ハズレです。壁一面写真とか、彼の使用品のコレクションとかあると思ってたのに」
「そりゃストーカーっすよ」
そうですね、と山崎はコロコロ笑った。
「八田さんのイチオシってどの写真ですか?」
「コレ」と、八田は迷わず一枚をタップした。
「やっぱりこれですよねぇ」
その写真の昴晴は私服で照れながらも自然に笑っている。
撮影が終わって撮影スタッフに挨拶に回っていたときのことだ。誰かが昴晴に問いかけた。「ステキなペアリングですね。彼女さんの趣味ですか?」なかなか突っ込んだ質問に場が凍りついた。しかし当の昴晴は「彼氏です」と訂正し、「センスいいって言ってもらったって伝えておきますね、ありがとうございます」と穏やかに笑った。その際に八田が思わずシャッターを切った一枚である。
少し前まで、昴晴は彼氏の話を全く口にしなかった。何かが変わったんだな、それも良い方に、と八田は胸を熱くした。
「飲み直しません?」
「いいですねぇ」
間髪入れずの山崎の返事を最後に、2人の姿はベランダから消えた。
テーマ; 夜景
9/18/2024, 11:06:52 PM