真っ逆さま。手を伸ばしても届かない。どれだけ頑張っても追いつけない。ずっと遠くに彼女がいる。
夏休みに入る1週間前、彼女は学校に来なくなった。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。チート主人公みたいな全てを兼ね備えた人。きっと私とは生きる世界が違うんだろうってずっと思ってた。
「𓏸𓏸さんがこの絵描いたのですか?」
夏休み3週間前。夏休み中の課題として出ていた絵をこっそり夏休み前の放課後に描いていたのがバレた。正直、先生にチクられると思った。
「あ、いや……えっと、」
「素敵な絵ですね!私にも描き方教えてください」
彼女は隣に座ってノートを取り出す。ワクワクした瞳で見つめられ、結局2人で教室のデッサンをした。その日の放課後から、2人で絵を描くようになった。
「ありがとうございました!これ、本日のお礼です」
「いやそんなの……」
差し出されたのは高級そうな黒インクのペン。たった数十分教えただけなのに、こんなもの受け取れるはずが無い。
「ほぼ新品ですから!きちんと後日お礼します!」
「何もしてないですよ、××さん絵上手だし…」
「じゃあお近づきの印ということで!」
「はぁ……」
ほぼ強引に渡されたペン。彼女は満足そうに笑っていて、なんだか返すのも申し訳なくなって受け取った。
そして2週間が経つと、彼女は来なくなった。放課後来なくなるだけならまだしも、学校に。もしかしてそれ程まで私が嫌になってしまったのだろうか。
朝、まだ朝休みだと言うのに暗い顔の担任が教室に入ってくる。異様な雰囲気に生徒達は静まり返り、担任に注目が集まる。
「××さんが、マンションの屋上から飛び降りて死亡しました」
…………絶句。
それだけだった。悲しいとか、寂しいとか、何も感情が湧いてこない。感情というキャンパスが真っ黒になってしまった感覚。
「××さんの部屋には、遺書と共にこの教室のデッサンが置いてあったそうです」
なんで、どうして。涙すら出ない自分が憎い。何も、気づけなかった自分が。
現実を脳が受け入れた瞬間、手が震え出す。
全てが怖くなって、絵を描いていたノートを閉じようとした時、彼女から貰ったペンがカタリと音を立てて落下した。
『落下』
6/18/2024, 10:43:00 AM