冬晴れ
冬の寒さが嫌いじゃないのは、冬の空が美しいことを知ってるから。空気だって澄んでて格別に美味い。鼻から息を吸い込んで口から吐いたときの湯気が楽しい。
こんな風に冬の寒さを楽しめるようになったのは、子どもの頃に父と2人で行った北海道旅行がきっかけだったように思う。
男2匹の旅行は会話が少ない分、景色に目が行く。視界すべてが雪化粧で、しかも厚塗り。白銀に支配された景色はどこか死の匂いがして、切なくて綺麗だった。もちろん、地元とは比べものにならないくらい寒かった。でも寒さより景色の美しさが優ってた。「寒い」って愚痴より「綺麗」って吐息をもらす回数のほうが多かったと思う。
北海道は寒さが名物だ。寒さがもたらす壮大な景色と、その景色と共に生きる動物や自然との触れ合いは、このうえない五感へのご馳走。そして、そのご馳走はここでしか味わえないもの。
夜明け前の摩周湖にいったり、雪の高原で乗馬したり、流氷ツアーのフェリーに乗せてもらった。旅行でたくさんの名物を堪能させてもらい、僕の心は満腹だったに違いない。
父と2人で行った静かな旅が、なぜか大人になった今も記憶のわりと手前の方に残ってる。あの綺麗な景色がすぐに取り出せるくらいの距離にある。
あの旅から、寒さは僕にとって嬉しい現象のひとつとなった。
冬晴れの日に、肺いっぱい空気を吸い込んだら、父との思い出が喜んでる気がする。
1/6/2026, 5:40:15 AM